オズと霧の浸食過程
「できた…!」
オズはニッコリと微笑み、スケッチブックを両手で掲げる。
そこにはとても十歳程度の少女が書いたとは思えない、精密で見事な絵が描かれていた。
オズはそのスケッチブックを大切そうに閉じ、傍らに置いた。
そして白い小さなバスケットの中から陶器の筒型ポットと箱を取り出し、たっぷり時間をかけて膝の上に広げた。
紅茶の入ったポット、そしてオズの大好物のパンケーキ。
スケッチを終えたあとに必ず口にする、彼女のお気に入りのおやつたちだった。
「いただきまーす」
オズは嬉しそうに手をあわせ、パンケーキを丁寧にちぎって口へと運んでいく。
シットリとした甘みがオズの口の中で広がった。
嬉しそうにおやつを食べる少女。村の大通りにいた無邪気な子どもたちと何も変わらないように見えるのに。
文字が読める、毒の霧を吸っても死なないと言われただけで、たちまちニンゲン扱いをされなくなったオズ。
そんな不幸をひとごとの如く受け流すように、彼女はたくましく、彼女なりに楽しい人生を歩んでいた。
少しずつ、少しずつ。
毒の霧をスケッチ、観察しながら彼女の緩やかな一日は流れてゆく。