オズと霧の浸食過程
家にたどりつく少し前のあぜ道で、
やせ細った目つきの悪い黒猫が舌なめずりをしてオズを睨んでいた。



嫌な予感がしたが、案の定だった。



オズの小さな家のドア一面に真っ赤なペンキで落書きがされてある。

近寄ってみてみれば、それは汚く乱雑な、なおかつどれも微妙に違う人間が書いたであろう絵が大量に描かれてあった。



死者を意味するドクロの絵。

魔女の絵。

血のりを真似た絵。

首吊りの絵。

ドクロの絵。

魔女の絵。


ドクロ、ドクロ、魔女、血、死者、首吊り、魔女、魔女、魔女―……



「酷いことするなあ……」



オズはドアに手をあて、俯いた。


オズには分かっていた。


それらは村の子どもたちによって描かれた落書きであることを。

そしてその落書きはオズを侮辱し、「消えてほしい」という意味であることを。



そしてそれは、日常茶飯事のことだった。



いまさら泣くわけでもなく、かといって文句を言ったって無視を決め込まれるにきまっている。


(仕方ない、仕方ない……)


何度も自分に言い聞かせる。
オズは無言で、怒りを押し殺した。


どうしても抑え切れなかった悔しさは、オズの唇にうっすらと浮かぶ歯型の痕に姿を変えた。



気楽だけれど、辛いことは山ほどある。

大切なのは、それをどう受け流すかにかかっていた。


これが、オズ・ウィリアムスの日常だった。


魔女と罵られる彼女の、あまりに平凡で柔らかな日常だった。



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