オズと霧の浸食過程
「“あんまり酷いことすると、痛い目みるよ?”だって!」
「まあ……」
「何よ、魔女のくせに。痛い目ですって?誰のおかげで生かされてると思ってるのかしら。村長から食べ物をもらわないと生きていけないくせに」
「そうよそうよ。きっと、何か力がある風に見せかけてるだけよ。魔女は嘘つきだから」
「村長っていえば……あの計画、どうなってるのかしら?」
「そろそろ通知があってもいい頃だけどね」
「それが、もうすぐらしいわよ!あとは人数を集めるだけらしいわ」
「まあまあ。……私の主人にもお声がかからないかしら」
クスクス、と婦人たちが冗談を吐くたびに顔を見合わせて笑う。
「あらやだ、もうこんな時間。主人が帰ってくるわ」
「そうね、そろそろ帰りましょう。……リザリー!どこにいるの?帰るわよ!」
婦人の一人が声をあげると、大通りの噴水のあたりから小さな女の子が走ってきた。
オズと年端も違わぬ女の子が、母親に手をひかれて、談笑しながら家路につく。
婦人たちはその微笑ましい姿を見送り、それぞれに残った仕事や世話をするためにやがて散り散りになっていった。
井戸の脇。ちょうど影になって人目につかないようなところに、蒼い花が一輪、倒れそうになりながらも咲いていた。
やがて日が暮れ、井戸に在るのはその蒼い花だけになった。