オズと霧の浸食過程
友達はいなかった。
話し相手すらいなかった。
一人だった。
ずっとずっと一人だった。
だから、せめて一生懸命に花と野菜たちを育てた。
私はこの先到底受け取ることが無いだろう愛情を、代わりに私が植物たちに注いでやった。
唯一の、友達だった。
生きがいだった。
ただ、それだけだったのに。
「…………」
( うばわれた )
呼吸がおかしくなっているのが自分でも分かる。
迫害にも暴言にも慣れていたはずなのに。
苦しくて涙が溢れそうになる。
しかし、それでも
オズは泣くわけにはいかなかった。
グ、と堪えて立ち上がる。裾がすっかり土色に染まったワンピースが朝の生ぬるい風に揺れた。
「出ていってよ」
涙をこらえるためにギュと強く瞑っていた瞼をうっすらと開けて、子どもたちを順番に見据えた。
オズに睨まれた子どもたちは、表情では強がって笑っていながらも肩がびくりと震える。
沈黙が流れる。
「出ていって」
もう一度言うと、一人の少年が舌打ちをして「おい、行こうぜ」と身を翻したのを合図に他の子どもたちもつられて足早に農園から去っていった。原型の残っていない畑は足跡だらけでボコボコになっている。
「しんじまえ」
少年が、振り返りざまにつぶやいたのが、聴こえた。