オズと霧の浸食過程
実は、オズが村のはずれの小屋に住まわされたのにはもう一つ理由があった。

オズの小屋から歩いてすぐのところにある、崖のような断層。

其処こそが、例の“毒の霧”の発生源だった。



今からちょうど五年前。


それはオズが本を読破したのと同じ頃。


100年もの間吹き続けていた毒の霧の噴出量が、突然はね上がった。

近づかなければ問題はないと言われるほど微量だった毒の霧が、この年を境に村人が住む居住区まで影響を及ぼし始めたのだ。


村では毒の霧による疫病が流行り、
苦しみにのたうち回りながら大勢の人間が死んだ。



「ついに、毒の霧の魔の手が」



村中が絶望と恐怖に打ちのめされるなか、


誰かが言った。




「そうだ。あの魔女に毒の霧を吸わせてみよう。あいつは魔女だからきっと死なないだろうし、毒の霧を打ち消すことができるかもしれない」



もちろん、オズが霧を打ち消す魔術など持っているはずはないことは誰もがわかっていた。


しかし、すがらずには居られなかったのだ。


オズを晒し者にし毒の霧の餌食にすることで、
一瞬だけでも毒の霧の恐怖を忘れることができるかもしれない。

そしてあわよくば、オズが毒の霧を打ち消してくれるかもしれない。



所詮はその程度の、ひどく身勝手な提案だった。



自己中心的で残酷な村人のために、命を捨てるということなのだが。



不思議なことに、オズはその提案をすんなりと受け入れた。



(もしかすると彼女は、死んだ方がマシだと思いつめていたのかもしれないけれど)



こうしてオズは毒の霧が噴出する崖のすぐ近くに住むことになった。


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