オズと霧の浸食過程
一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、半年が過ぎても。




オズは、死ななかった。




涎を垂らし床を転げ回ることも、

狂ったようにベッドの上で踊ることも、

目と耳から体液が噴出すようなこともなく。


少しの野菜と大好物のパンケーキを食べて、淡々と生き続けた。




こうなるといよいよオズは本物の魔女と認識され、村人は毒霧と魔女の二つの恐怖に板ばさみ状態となったが、それも一瞬のことだった。



「ねえ、オズがあの崖に住み始めてから疫病が減ったわ」

「なんだか呼吸が楽になった気がするのよ」

「そういえばそんな気もするな」



最初は誰もが半信半疑だったが、オズが崖の小屋に住み始め毒の霧を吸って生活を始めてから、ごく少しずつだったが毒の霧の脅威が収まってきたのだ。


それが偶然だったのか、そうではなかったのか。


真実は誰にもわからない。


しかし、恐怖に追い詰められた人々はどんなにささいな出来事にも酷く敏感だった。



「やった!これでしばらくは毒の霧を防げるぞ!」



またいつ襲いくるか分からぬ毒の霧への恐怖はあったが、とりあえず現状を回避できたことに村人は安堵のため息をついた。


そして。



結果的に言うなれば、村を救った存在になるオズには誰一人として賞賛の声はかけなかった。



毒の霧を防ぐために、イチかバチかの使い捨ての駒として放り込まれたオズ。





どれだけ村に貢献したとしても。



魔女と呼ばれたオズは、結局ただの、人柱でしかなかったのだ。








忘れられたセブンスダヴリュ。


誰も知らない、霧の村。



村は確かに存在し続けている。


たった一人の少女を犠牲にして、ずっと、ずっと。


もうずっと、ながいこと。

< 7 / 26 >

この作品をシェア

pagetop