メランコリィ
「お嬢様、お茶が入りましたよ。そんなところに長い時間いらっしゃっては風邪を引いてしまいます。少し休憩なさっては、」
「鹿島」
「…なんでしょうか、お嬢様」
「その呼び方は、厭よ」
サイドテーブルに、なるべく音を立てぬように、そっと、紅茶の入ったカップとシュガーポットを置く。眉をひそめていたかたい表情が一瞬ゆるんだものの、すぐにまた彼女は不機嫌そうに腕を組んだ。
「その呼び方は嫌いなの、わたし」
「いいえ、お嬢様。私が旦那様に叱られてしまいます故、どうかお許し下さい」
「お父様にはわたしから何とでも言うわ。だから鹿島、お嬢様扱いはやめて頂戴」
「なりません、お嬢様。私はあなたのお世話係ですよ。それ以外のことなど、」
息が、止まるかと、そう思った。
「厭、厭よ、鹿島。わたし、厭よ……」