傾国
暁は多くの民族を飲み込んで膨れ上がった国だ。
それ故に皇帝の命を狙う者も多い。
五十の退官までに死なないほうがおかしいではないか。
そう思われるのが普通だ。
「礼、お前、家のために皇族付きの武官になるつもりですか」
声を上げた母の顔を、礼は見やった。
礼の母は丹族の人間だ。
赤銅色の肌と橙色を帯びた茶の瞳を持つ彼らは、ずっと昔から暁で虐げられてきた民族だった。
公には、彼らと暁人の間に待遇の差はない。
けれど就ける職種や婚姻などで、丹族の人間は根深い差別を受け続けていた。
例えば、丹族の官吏は滅多にいない。
祖母も、今でこそ実の娘のように母に接しているけれど、初めて父が母を家に連れてきた日、頑として母を家に上げなかったという。