傾国



母の目が、辛そうに細められた。



「その気持ちは嬉しいけれど――」



「よく言いました、礼」



母の言葉を朗らかに遮ったのは、祖母だった。



「孫の口からそんな言葉を聞けて、嬉しいですよ」



そう言って、祖母は土間に降り、漬け物甕の辺りで何やらごそごそやりだした。



「お義母様、それは……!」



母が声を上げる。


やがて戻って来た祖母の腕には、漆塗りの重そうな小箱が抱えられていた。



「礼、これはお祖父様が家のためにと残して下さったものです」



そう言って祖母が開けた蓋の下には、金貨が所狭しと敷き詰められていた。



< 14 / 74 >

この作品をシェア

pagetop