傾国
「ああっ!」
横から聞こえてきた声に、礼は思考を一旦閉じた。
振り向くと、一人の少女が、描いたように形の良い眉をひそめてこちらを睨んでいた。
さっぱりとした顔立ちの娘だったが、切れ長のその目には礼をたじろがせる迫力がある。
「あ……あなたの席でしたか、ここ」
尋ねても少女は答えなかったが、礼は譲ろうと腰を浮かせた。
「あーあー良いんですよ、この人が勝手に決めてるだけですから」
少女の後ろを通った少年が、笑いながらそう言った。
彼の面差しに、礼は瞬きした。
自分と同じく、丹の血が流れているらしい。