傾国
のてのてという歩調で入ってきた老人が、前に掛けてある白い石板に木炭で大きく『虹帝歌』と書いた。
この浮楽塾は、昔題を解くだけでなく、問われる内容を予想して塾生に解説する点が他の塾と異なっており、評判が良い。
「では第三段から暗誦できる者は? ああ、揮祥と葉慶だね、他にはいないかい?」
師の言葉が終わると同時に手を上げた二人に続いて、礼も小さく手を上げた。
あまり知られていない古詩だが、詩文を好む妹の影響で礼は知っていた。
師がにこりと笑った。
「君は、青礼だね。じゃあ四連まで頼もう」
礼は立ち上がって古語を吟じ始めた。