傾国



湯気の向こうで、葉慶の瞳がきらりと光っている。



「あそこの姫様って、八年だかしたら今の皇太子に嫁ぐだろ? だから皇太子が譎太子のこと迎えに出るんだって」



礼が皇太子付きを目指していることは、塾で二人に話した。


だから葉慶はこの話題を出したらしい。


皇族の姿を見る機会など滅多にないから、これは貴重だ。



「皇都入りの行列か……。見物の人手凄いだろうな」



「大丈夫だよ。寒いし」



「それはそれで辛いだろう」



揮祥がはねつけても、葉慶は瞳を光らせたままだ。



「……湯たんぽと着布団どっちが良い?」



くそ真面目な顔で防寒策を考え出した葉慶に、礼はこれまたくそ真面目に着布団、と返した。



「行くのか……」



揮祥はどうやら寒がりらしい。



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