傾国
戯れ。
そう、自分は父の戯れの結果に過ぎない。
忘れられるのも当然か。
(私には)
皇祖神の聖なる血は流れていないのだから――。
磨き込まれた廊下を進み、冷気の伝わる扉の前に立つと、武官の一人が扉をゆっくり叩いた。
分厚い扉から、ざわめきが微かに漏れ聞こえる。
この扉を通れば、外庭園を埋める人群れと、譎国の太子が待っているのだ。
「皇太子殿下の御出座にございます!」
高らかな言葉に続いて、両開きの扉が割れ出す。
同時に、ざわめきが歓声に変わって耳に飛び込んできた。