傾国
冷たい冬の空気と、自分の見目だけは讃える民衆の声に、崔延は精一杯顔を上げて向かった。
空中に張り出すような空間に据えられた椅子に腰を下ろすと、正面の一段低い所に設けた段の上で、譎太子が平伏したまま言葉を発した。
「天に守られ地を統べる、神の末裔たる皇太子殿下。御目通り叶い、臣の胸は歓喜にうち震えております」
どの様な仕掛けか、太いその声は庭によく通った。
外庭園が水を打ったように静まり返る。
つらつらと続く儀礼的な挨拶を聞き流して、崔延は外庭園を見渡した。