傾国
武官の視線の先、民衆の一角に混乱の声が渦巻いていた。
小柄な人影が人混みをかき分けてこちらへ走り、その後ろを遅れて二人の人物が追っている。
まだかなり遠くで、それだけ把握するのがやっとだ。
訝しく思い再び傍らに目をやった時には、武官はすでにそちらへ向かって行った後だった。
不穏なざわめきを感じ取ったらしく、譎の太子も顔を上げる。
だが彼の前に座す皇太子の目は、自分のほうに駆けて来る少年に釘付けになっていた。
少年は自分のほうへどんどん近づいてくる。
もう顔立ちまでわかるほどだ。
けれど、その目が鋭く向いているのは自分ではない。
一心に少年が見つめる、その先を、崔延は見やった。
鋼の光が、鋭く自分を射した。