傾国
老いてはいるがそれだけの経験を持つ武官たちが、譎太子と貴族たちを取り押さえた刺客から遠ざけた。
「殿下! どうぞ中へ!」
騒然とした空気の中、崔延は武官に囲まれて座を立った。
「医官を呼べ。あの者を診させよ」
「はっ」
「あの者、傷が癒えるまで留め置け。話がしてみたい」
「……承知致しました」
女官たちの衣擦れ。
警護の者の短甲の音。
廊下を走る靴。
人を呼ぶ声。
声。
声。
(……)
らい、とあの少女は呼んでいた。
姉と弟か、もしくは友人か。
「孟宰相をお呼びしろ! 遣いの者を――」
自分を崔延と呼んでくれる者は、いない。
誰一人として。