傾国



それは、北方の安領からやって来たことを示す旅券だった。



「殿下、その旅券の紙をよくご覧下さい」



安領の特産は、つやのある美しい紙だ。


繊維の縦横を揃えることで、光をはじき独特のつやを持つ紙を作ることに成功している。



言われて崔延も気付いた。


安領の紙は高級品で、旅券にたやすく使えるような代物ではない。


だがこの旅券の紙は綺麗に繊維が揃っている。



「何者かが安伯の企てに見せかけようとしたのか」



「恐らく」



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