傾国



崔延は安伯の顔を思い浮かべた。


安伯は今年五十になる細身の男だ。


領民からの評判は悪くない。


ただ古式を重んじすぎるきらいがあり、若い貴族からは反感を買っていた。



「殿下、安伯と夏伯に参内するよう遣いを送りましょう」



宰相の言葉に頷く皇太子を見て、諸官が動きだした。



西方の小さな領地を治めている夏伯は、何かにつけて安伯と対立していた。


三十二と伯としては若く、果断な所のある男で、安伯とは犬猿の仲である。



(夏伯がそのような……)



過去に数度会った印象からは、他人に濡れ衣を着せるような人物とも思えない。


慎重ながら政に関してはやり手の安伯と、清廉潔白を是としここぞという時に決断を下すことのできる夏伯。


いつもぶつかる二人だけれど、手を携えてくれればどれほど心強いだろう、と崔延は思ったものだ。



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