傾国
理解したと同時に、礼は走り出していた。
葉慶と揮祥に説明している暇はない。
男が追われている事に気付かないうちに可能な限り近付いて、その懐から矢をつがえた短弓が出た所で一思いにその腕に飛び付いた。
とにかく矢の先を下に、下に向けなければ。
八方から伸びてきた腕が刺客の仲間か護衛かも分からなくて、男の手首を捕らえるのに躍起になった。
だから。
自分の下で弦の音を聞いた時、安心した。
殿下には、矢は当たらないと分かったから。
熱い衝撃に息が詰まって、痛みに脚の力が抜けた時、二人が何か叫んだのが聞こえて、そして……。
そして――。