傾国
彫りこんだような皇太子の目元が、ふっと和らいだ。
「そうか」
翳りの消えたまなざしは穏やかで、礼は何となく母の顔を思い浮かべた。
「もう行く。困った事があればいつでも申せよ」
腰を上げ、崔延が背中を向ける。
扉へ歩くそれは、歳の割に高く、細かった。
「殿下!」
自分と同じ十五の少年が、そう呼ばれて振り返る。
「私は、先日殿下付きの武官に志願致しました」
ぱちりと崔延が瞬いた。
「もしも及第しましたなら」
その時は。
「私は私の全てを捧げて殿下をお守りいたします」
黒い瞳が橙色の眼差しを受けた。
「待っている」
細い声を零して、崔延は今度こそ部屋から去った。