傾国
その後傷が完治して家に戻るまで、崔延が礼を訪ねて来ることはなかった。
皇族は多忙なのが普通で、見舞いに訪れたことのほうが異例だ。
礼の回復は医官を驚かせるほど早く、雪が霙に変わる頃には塾に顔を出すまでになった。
「試しに実技があるって聞いたけど、影響は出ないんだろう?良かったよ」
「礼が元気だー!!」
自分のことのように安堵してくれた揮祥が、元怪我人に抱きつこうとする葉慶を抑え込む。
変人だの性格が悪いだのと言われているけれど、この二人の秀才は好意をまっすぐに向けてくれる。
この二人と共に学べること、共に働けるかもしれないことが幸せだ。
「塾は、どこまで進んだ?」
「虹帝歌が全部終わって、遵論に入ったとこだよ」
「簡単だからな、礼ならすぐ追いつけるだろう」
「簡単とかそういうこと言うなっ」
どうやら葉慶は虹帝歌の解釈にてこずったらしい。
「本当のことだからな」
しれっと言った揮祥に思わず笑ってしまう。
「おーいそこの三人、もうすぐ師がいらっしゃるぞー」
葉慶が慌て筆を取り出した。