傾国


確かな喜びが、礼を包んだ。


幾度見直しても、乙八の文字は消えない。


自分は、この場でおおっぴらに喜んで良いのだ。


きつく、割札を握り締める。


手の血が止まるのではないかと思うほど、きつく、強く。



『待っている』



彼の傍へ、また行ける。


安堵からか、胴が震えた。



「及第した者は招徳(しょうとく)門より入って割札を――」



体を駆ける喜びに任せ、礼は滑るのも構わず走り出した。



揮祥や葉慶も、別の門で自分たちの結果を見ているかもしれない。


招徳門へ。


入城の手続きには時間がかかるというから、もしかすれば彼らに会える。



日が登りだした。


靴の下で、雪が融けて水音をたてた。



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