傾国
どこの塾でも早いうちに行けと言われるのか、朝早くにも関わらず、招徳門はごったがえしていた。
指示を出す官吏は皆、声を張り上げて及第者を誘導している。
その中に、礼は覚えのある名を聞き取った。
「医女、甲十七! 姜葉慶はいないか!」
「姜葉慶! いないか!」
官吏が二人ほど、門のそばで礼の友人をしきりと呼んでいる。
「――おい、お前呼ばれてるぞ」
「ほんとだ。何だろ」
驚くほど近くから、馴染みの声がした。
人混みの中で身をひねると、ちょうど葉慶が門へ走っていくところだった。
この混雑を走り抜けていく彼女には、軽く尊敬の念を抱く。
「お、礼!」
その後ろ姿を見送って踵を返した揮祥が、礼に気づいて軽く手を挙げた。