傾国
分厚い綿入れを着こんだ小柄な女人が、一目散に葉慶の元にやって来る。
「母上、なぜここにいらっしゃるのですか!」
「それは私の台詞です。さ、帰りますよ!」
葉慶の母という人は、葉慶よりずっと背が低かった。
掴んだ腕を振りほどかれて、彼女はよろけた。
「葉慶、お前は姜家の総領娘なのですよ! それを、女官ならまだしも医女の試しを受けるなんて、何を考えているの!」
下級で皇族へ目通りが叶わない女官ならば、結婚も退官も自由だ。
だが皇族の身辺に仕える上級の女官や皇族に薬を処方する医女は、まず結婚できないし老いてからでなければ退官できない。
身元の不鮮明な人物を近づけてしまい、皇族が暗殺されるのを防ぐためだ。
特に女は、夫のために平気で人を殺せるから、という理由もあると聞く。
唯一の子であり、婿をとって家を継ぐべき葉慶が医女に及第した今、姜家は危機に瀕しているのだ。