傾国
ただの怒鳴り声ではない。
怒りをぶつけるのではなくて、声を出さなければ手が出てしまうから。
衝動を懸命に制御しようとして出した、そんな声だった。
きっと葉慶は、彼女なりにこの母親が好きなのだ。
傷つけないよう必死なのだ。
「何をしているんです」
葉慶の剣幕に母が怯んだ時、ぴしりと冷静な声が二人を打った。
「皇城の門前で、何をしているんです」
声の主に気づいた下官たちが、慌て頭を下げる。
「これは柳師……!」
葉慶が驚いたように振り向いた。
礼の隣で、揮祥の目が見開かれる。
「薬記の……」
「薬記?」
「暁に伝わってきた薬草について、まとめた書物を編纂している方だ。医女副長だけど、春には医女長になられるそうだよ」