傾国


日に焼けた細面は、皇城の医女というよりは狩猟採集民のそれだ。


野山にわけ入って薬草を集める日々は、もう長いのだろう。



「このたび医女の試しに及第致しました、姓を姜、名は緑瑛(りょくえい)、字を葉慶と申します」



さっと向き合った葉慶が、立位での最敬礼を伴って柳に名乗った。


姜緑瑛。


礼が、そして恐らく揮祥も初めて聞いたであろう、葉慶の名だ。



丹族には子に(あざな)を持たせる慣習がない。


丹人も暁人も子に名を付けるのは母親なので、字の有無で母親の出自が分かるものだ。


暁では、親以外では師と生涯の友と定めた人物にしか名を呼ばせないという。



「母が私の及第を認めようとせず、説得致しております」



「及第を認めない?」



訊き返した柳に、我に帰った葉慶の母が猛然と訴える。



「この子は姜家の総領娘なのです。本来は婿をとって家を継ぐべき子なのに、母に黙って医女の試しを受けて……」



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