傾国
ちらりと、葉慶は母に目をやった。
「医術所には、国の医薬術の粋が集まると聞きました。……私の家は貧しくて」
母が咎めるような声を上げたが、葉慶は気に留めた風もなかった。
「貴族だなんて嘘みたいな家なんです。病身の父が咳き込みすぎて喉を切っても、街医者は手当ての仕方も分からない。薬湯の煎じ方も分からない」
礼は、隣の揮祥を伺い見た。
彼の目には祈りがあった。
葉慶が抱く思いが、どうか柳に伝わるように、という、真摯な願いだった。
「街の医術所に伝わっている医薬術は、とても限られているんです。私はそれが嫌なんです!
皇城にしまいこまれている医薬術を、もっと市井に広めたいんです」
柳の表情は変わらない。
「随分と大層な理由だけど、間違えてはいないかしら。皇城の医術所は、皇族のためのもの。薬も用具も、街の医術所では扱えないような高価なものばかりなの。
皇城の医薬術を広めれば平民が助かるというのは短絡的でしょう」