傾国
鍛練は、模擬短剣を使った対人格闘から騎射へと移った。
箙と弓だけ持って、放牧場から馬を引いて鞍を着けずに乗り、四本の的に続けて矢を射るのだ。
的に当てるのはもちろん、馬をことさら選ぶようなことをしたり落馬したり馬上で箙を負うのが遅かったりすれば、終わってから容赦なく教官に殴られる。
あの少年の動きには一切の無駄がない。
裸馬の胴を脚で挟んでいるだけなのに上体が振られることなく、かといって力が入りすぎているようにも見えず、鮮やかに的を射落としていく。
際立つ滑らかな動きに、自然と目で追ってしまう。
かつて自分の代わりに矢を受けた彼が弓射の達人であるというのは、何度か鍛練を見て本当のことだと分かった。
剣や格闘や捕縛術では、小柄なせいもあってか大して目立たない。
けれど弓を持つと、纏う雰囲気だけで違いが分かる。
力むことなく、弓と両腕を一体となっているかのように動かす様は、きっと歴戦の将と並べても見劣りしないだろう。
「殿下、こちらにいらっしゃったのですか」
「将軍? 今は鍛練の教官役をしている時間では……そうか、この組はそなたの預りであったか」
「縫衣所の女官どもが殿下を探しておりましたぞ。ご婚礼まで日もないといいますのに。あまり女官どもをいじめるものではございません」