傾国
ほんの小さな時分からこうして鍛練を眺めていた崔延を、将軍たちはよく可愛がった。
やがて彼が成長するにつれ『覇気がない』、『弱々しい』と彼らは距離をとるようになったが、この蘇将軍は昔も今も崔延に優しい。
「衣の寸なら立太子の時に採ったものがある。あれたちは一々巻き尺でぎゅうぎゅう絞めて、強引で敵わん」
「殿下は御歳十五、今年はもう十六におなりだ。背など、ほんの一月も経てば見違える御歳頃でございます。立太子のときのものでは足りないも足りない、きっと脛まで見えてしまいましょう」
「縫衣所が張り切っておるわ。上衣はようやっと、黒貂に決まったらしいがな。中の絹は緋か紫か、沓の珠には翡翠か琥珀か珊瑚か、そんなことで朝から晩まで侃々諤々よ」
「ほう、翡翠は良うございますな。さらば瑠璃と組み合わせたり、琥珀ならば瑪瑙などと組み合わせればまた」
「そう言ってきてやれ、皆いい加減煮詰まってきているようだったからな」
「皇太子殿下の御婚礼の御召しともなれば、縫衣所の女官どもの腕の見せどころでございますからな。そういう思案の時間も含めて、存外楽しんでいるものですよ、おなごは」
そのくらいおなごの気も分かってやらなくては御正妃様にも愛想を尽かされてしまいますぞ、と笑って、将軍も鍛錬に目を落とした。