傾国
瑞翔の射手の中で、青礼の名は次代の弓兵隊長候補として知られている。
連射、速射、遠射、騎射の全てで皇立弓射場の若年者記録を塗り替えた者の名は、越えるべき目標として若者の間に轟いていた。
だが、安寧の続く世で、弓兵隊の数ある小隊の中で過去十ニ年間、欠員による募集をかけた所はなかった。
四歳で初めて弓を持って、十五の今日まで、礼には青家嫡子以外に公の身分はなかったのである。
その十一年の間に、元は宮城の中級官吏であった父が失脚した。
礼の父は、真面目だったが世渡り下手だった。
かろうじて皇都に住み続けることはできたが、もう父の給金では母と妹、祖母を含めた五人を養うのがぎりぎりだった。