ベイビー、君は僕のもの
ピピピピピ。

枕元で、耳障りな電子音が鳴り響く。

わたしは目を閉じたまま手を伸ばし目的の物を見つけると、その音を止めた。

ふわふわ、意識が定まらない。

未だ布団に顔を埋めたまま、心地良いまどろみの中を漂っていると──不意に、身体を揺すられた。



「月。月乃、起きろ」

「う、ん……あと5分……」



自分の肩に置かれたその手から逃れるように寝返りをうって、むにゃむにゃ呟く。

しかし、次の瞬間──わたしはガバリと、勢いよく上半身を起こした。



「なっ、かかかっ、かなちゃん?!」

「うん。月乃、おはよう」

「あ、おはよう……じゃなくて!!」



のんきに朝の挨拶をしてきた彼に、ついつい乗せられてしまいながらもつっこみを入れる。

かなちゃんはフッと笑みを浮かべると、布団を握りしめるわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。



「相変わらず月乃は朝弱いなぁ。ごはんできてたぞ~」



息を荒げるわたしなんか気にも止めず、彼はしゃがんでいたベッド脇から立ちあがった。

そして信じられない、という思いでパクパクと口を開けたり閉じたりしているわたしを放置し、さっさと部屋を出ていく。


……年頃のレディが眠る部屋に勝手に侵入しておいて、それに対するお詫びはなし?!

言いようのない怒りにかられて、わたしはかなちゃんが出ていったドアに、力一杯枕を投げつけた。


──彼は斜め向かいの家に住む大学院生、三島 奏。

少し歳の離れた、正真正銘わたしの幼なじみだ。
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