ベイビー、君は僕のもの
どうしてわたしは、今ここにいるんだろう。

かなちゃんと喧嘩してまで、どうして、この人と過ごすことを選んだんだろう。

……わたしは、どうしてかなちゃんに、あんなひどいことを──。


つま先を見つめる瞳に、じわ、と、涙が浮かぶ。



「あれ? 泣いちゃった?」



たいしてあせる様子も見せず、津川くんがそう言って手を伸ばしてくる。

こぼれそうになる涙をおさえ、キッと睨みつけて、その手を振り払った。



「ッ、さわ──、」



さわらないで。

そう言おうとした口は、あっという間に言葉を失った。

なぜなら、津川くんを振り払った、左手の反対側──右の手首を、他の誰かに強く掴まれたから。

ほとんど反射的に、後ろを振り返った。



「……かな、ちゃん」



ああ、かなちゃん、だ。

今、わたしの目の前に。2日前別れたきり会っていなかったかなちゃんが、少しだけ肩を上下させ、余裕のない表情で立っている。



「は? だれ……」

「………」



呆然としている津川くんをその場に残し、わたしの手首を掴んだまま、かなちゃんは無言でさっさと歩き出す。

わたしは抵抗することもなく、連れられるままに彼の後を追った。
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