スロウダンス
(ちょっと、今電話中!!)

私は受話器を握ったまま、その手を無視した。

すると、また肩をつつかれる。

(だーかーら、今電話中なのっ!)

私は後ろ手に『あっち行って』の意味を込めて、シッシッと手を振った。

すると、パソコン越しに前に座る後輩が、口をぱくぱくさせて後ろを指差す。

(んっ?何?!)

受話器の口を押さえて、椅子ごと振り向いた。

ーーーそこには・・・

私はどんな顔をしていただろう?とんでもなく間抜け面だったと思う。

受話器を握る手から力が抜けた。

ブラブラとぶら下がった受話機口から、私以上に間の抜けた声が聞こえる。

『もしもし~、聞いてる?』

私の代わりに、受話器を手に取り、

「よぉ、久し振りだな。安東主任。」

『えっ?!誰だ、アンタ・・・!』

袖口をまくりあげた手を私の机について、

「相良だ。俺から加藤部長に説明するよ、電話代わってくれないか。」

『えっ!そ、それは・・・』

私には、相手の反応は分からないけど、明らかに動揺しているみたいだ。

(ちょっと、お客様相手にマズイでしょ!)と一瞬慌てたけれど、ハッと気付く。

そう言えば、相良部長は、元S社のプランニング部の課長だったーーー

私からは、相良部長を下から見上げる形になっていて、相手の反応が面白いのか『ククク・・・』と不敵に笑うと、長い首の喉ぼとけが上下した。

「説明ついでに、余計な事まで口走ってしまうかもしれませんが。」

『ーーーっ!』

相良部長は、私に向かうと、『ほい』と受話器を手渡した。

それをおずおずと受けとる私。

「もしもし・・・」

『あっ!藤曲さん、先程の件は結構です。今のままで大丈夫なので、ええ、』

「えっ?あの、、、?」

『では、失礼します!』

ちょっと、という間もなく、電話を切られてしまった。

あの変貌ぶり。呆然としてしまう。

「解決したか?」

隣に目をやると、相良部長が腕組みしてこちらを見つめている。

「はぁ、多分・・・」

(あれを解決したと言えるのだろうか?この人脅しにかかってたよね・・・?)

「じゃあ、藤曲さん、解決したところで話がある。」

(へっ?)

「じゃ、行こうか。第一応接室予約しているんだ。」



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