スロウダンス
少しの沈黙。

相良部長は、言葉を続けた。

「・・・それら全部、藤曲さんの自己満足だからだよ。」

私は息を呑む。

「仕事は、自分の外側に向けて発信する行為だ。それはつまり、他者への関心を意味する。
誰かに認められたい、喜ばれたい、役に立ちたい、そのモチベーションは大事だ。評価だって他者認識の一つだ。それが、全部内側に向いていたんじゃ無意味だ。」

「では、私は、、やっぱり向いてないと思います。」

「・・・そうなるだろうな。」

(じゃあ、何で???)

突然やって来て、あれこれ言われて、私の頭の中は、ぐちゃぐちゃだ。

「でも、藤曲さんがやっている事が外側に向いたら、最高の仕事が出来ると思うけど。」

「えっ・・・」

その言葉に思わず、顔を上げた。

相良部長は、片方の口の端を上げながら、

「やっと、俺を真正面から見たな。」

「なっ・・・なっ・・・!?」

恥ずかしくなって、唇に手の甲を当てて、顔を横に向けた。

(何を突然、言い出すのよ。この人・・・!!)

逸らした横目から、チラリと見やると、相良部長は、面白そうにこちらを見ている。

「俺が、藤曲さんの仕事の一つ一つを拾って、外側に発信するよ。」

「ーーだから、深く考えず、企画業務推進部に来い!」

私は、相良部長の澄ました顔や無機質な顔しか知らない。

だから、そんな表情の裏側に、こんな熱い面を持っているなんて想像も出来なかった。

きっと、まだ誰も知らないーーー

この人の手を取ったならば、私はどうなる???

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