スロウダンス
ステップ2
「おはよう、藤曲さん」
(んっ?ここは・・・?)
目の前には、相良部長。
いつもの冷笑ではなく、すごく爽やかな笑顔で、立っている。
「えっ・・・、あの、ここは?」
質問する私にニッコリ微笑む。
「今日から君の仕事場だよ。ほら、君のデスクも。」
机を指差す。
「えっ、と言うことは『企画業務推進部』ですか?」
「何を今更。君は昨日、異動を承諾したでしょ?」
私は、慌てて首を振る。
「そんな!!!考えさせて下さいと答えただけで、その、まだ・・・」
「往生際が悪いなぁ~、藤曲智子さん」
鼻歌でも歌いそうな雰囲気で、相良部長は、ゆっくり近付いてくる。
(な、なんか怖い!)
身の危険を感じて、後ずさりすると、すぐ後ろは壁だった。
戸惑っているうちに、あっという間に距離を詰められる。
そして、身を屈めて私を覗き込んだと思うと、突然『バン!!!』と音をたてて壁に片手をついた。
(ヒーッ!!!)
私は驚いて目を閉じる。
「俺から逃げられると思うのか?」
いつもより低い声が耳を掠める。
「に、逃げるなんて滅相もございません!」
「何で分かってくれないかな?俺は・・・、俺は・・・」
少しの間、言葉が途切れたので、ゆっくり薄目を開いてみる。
相良部長は、そのままの姿勢で項垂れている。
「あの・・・」
私が口を開くと、相良部長は、ゆっくり顔を戻して正面から私を見据える。
「・・・」
「俺は、お前が欲しいんだ・・・」
(えっ・・・)
切ない表情に胸が締め付けられる。
(なんか、かわいそうかな・・・。ここまで言ってくれているのに)
「相良部長・・・、私、やってみます・・・」
その言葉を待ってましたとばかり、相良部長はニヤリと笑った。
たちまち態度が豹変する。
「そうだ!頑張れ!藤曲~!馬車馬の如く、働け~!働け~!」
(えっ、えぇぇー?!)
なんとも悪い顔で、ぎゃははと笑っている。
「その言葉取り消せないからなぁ~俺の為にせいぜい尽くせよ!」
「い、いやぁぁぁー!」
私は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。