スロウダンス
「ねぇ、企画業務推進部の他のメンバー聞いた?」

「いえ、まだ…ただ私は1日からで、他の部署からは15日付けで異動と聞いてます。辞令は明日出るんですよね?」

スプーンでくるくると混ぜながら、森先輩は、渋い表情でカップから目を離さない。

「…あの?何かあるんですか…。」

相良部長から、あの浜辺で話した事が頭を掠めた。

『島流し的な部署』

社長の単独決断が、社内に反発を招いていると。

その余波が、社長派・専務派と社内派閥へと複雑に事情が絡んでしまっている。

「ホントはね、正式に発表されるまで、人事については漏らしちゃいけないんだけど…、今回の件について私も納得いかないというか…。」

そういって森先輩は、畳まれた紙をこちらへ差し出した。

そっと手に取って、丁寧に拡げる。

記された名前を見て、私は無意識にこめかみを押さえてしまった。

「・・・私が言うのは憚れるけど、どうみても各部署からの溢れ者よね?」

「…そうですね。あまり詳しくはないですが、噂を耳にする人達ですね。」

「良くない噂をね。」

すぐ私の言葉に訂正をいれた森先輩は、怒っているように見えた。

でもそれは、私を心配しての表情だと分かって、私は顔が緩んだ。

「…何を笑ってるのよ。アンタ」

「へへっ、大丈夫です。俄然燃えてきます。」

相良部長が私に言った言葉ををそのまま口にする。

私につられたのか、森先輩も少し笑った。

「私は手を貸せないんだから、これからは、せいぜい、イケメン部長に助けてもらいなさい。」

「…あまり頼っちゃいけないんでしょうが、これからも森先輩に色々相談したいです。」

シュンと俯く私に、フンと鼻を鳴らして

「~っ!まったく高いわよ!ここは藤曲ちゃんのおごりね!」

「えぇぇ?!」

「嘘よ!もっと高い時に取っておく。」

森先輩が照れ隠しに伝票を手に取って、会計を済ましてくれた。2人で店を出てからも、おばちゃんみたく、『奢る』『払う』でギャーギャー言い合いながら。



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