スロウダンス
いつもより30分早く目覚めた。


部屋は冬の空気をたっぷり含んで、冷え冷えしている。

まだ眠い目を擦りながろ、ゆっくり起き上がり、石油ストーブの着火口に火を点けた。

ゆっくりと部屋が暖まる迄、ベットで微睡ろんでいると、アラームが鳴った。

さて、今日はぐすぐずしていられない。

思い切って布団を捲り上げる。

そして、ハンガーに掛けてある真新しいスーツを手に取った。

=========

会社に着いて、いつもと同じ場所にタイムカードを探すが、見つからない。

昨日のうちにタイムカードが移動されたらしく、気付けば相良部長の下、『企画推進業務部』へと移っていた。

モタモタしている私に、後ろから舌打ちが聞こえて、慌ててカードを通す。

ペコッとお辞儀をして、後ろを見やると、髪を綺麗に撫で付けた、銀縁の眼鏡をかけた細身の男性だった。

着ているコート、マフラーにしても、一目で上等なものだと分かる。

相良部長もおしゃれだが、もっと遊びがある。この人は、隙がなさすきだ。

止まる私に目もくれず、足早に横を通り抜けて行く。

その時、私の背後から声がした。

「まったく、嫌な奴だぜ。」

< 28 / 35 >

この作品をシェア

pagetop