スロウダンス
開いたエレベーターからは、相良部長の姿。

私と英君の姿を見やると、少し驚いたようで僅かに片眉が上がった。

「相良部長、おはようございます。」

私の挨拶にすぐにいつものクールな表情へ戻る。

「・・・出掛けるぞ。付いて来い。」

(いきなり外出ですかっ!というか上司モードフルスロットルですかー!)

ワタワタする私と英君の間をすり抜けて一人先を行ってしまう。

「相良部長、待ってください!」

慌てて後を追い掛ける。すると、右腕を強く掴まれた。

「姉御・・・」

「英君、ごめん。またの機会…」

言い終わらないうちに、先を歩く相良部長が

「英、異動早々、仕事以外の事をする時間は、藤曲には無いからな。」

振り向いて、私の代わりに答える。

(えっ!やっぱり、しょっぱなからそんな感じなんですね…)

私は覚悟していたとはいえ、改めて相良部長の口から宣言されると、肩を落としてしまう。

「藤曲、早く来い」

そんな私の様子に苛立たしげに言葉を放つと、ロビーから出ていく。

「英君、また落ち着いたら。ね?」

一方的に話を切って、私は相良部長の後ろ姿を追った。

その時、英君がどんな感情を抱いたかなんて知る由も無かった。
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