スロウダンス
ステップ4

部長と二人

足のコンパスが違うのか、私は小走り気味で歩くところ、前の相良部長は余裕で駅までの道のりを行く。


小田原提灯が懸かる、JRの改札口を通り、ホームで次の電車の時間を確認したところで、ようやく相良部長が口を開いた。

「これを東京駅に着くまで目を通しておけ。」

手渡されたのは、『新製品企画発議案』
と書かれたレジュメ。

「これは…?」

そう問いかけてジロリと睨まれたので、慌てて目線を資料に戻す。

(先ずは内容を確認してから質問しろって事ね…)

ラッシュを過ぎた車内は空いていて、私達は対面式のボックス席に腰を落ち着かせた。

規則正しい振動と、車窓からは、キラキラ光る海面が現れてはその眩しさに目が眩む。

その眩しさに負けず劣らず、正面に座る相良部長は、脚を軽く組み、顎に手をやりながら目を閉じている。

(うっ…なんだこの絵になる光景。肌はツルツルだし、睫毛長いし…まぶしーい!…ってか、相良部長寝てる?)

「寝てない。読み終えたら声掛けろ。」

「ぎゃっ!は、はい!」

急に口を開くもんで、慌てて変な声を上げてしまった。

(エスパーか!アンタはっ!)ドキドキする胸を押さえながら、ページを捲る。

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一通り内容に目を通し終え、言われた通り声を掛ける


すると真正面から相良部長と視線がぶつかる。

「えっと、つまり、これは、相良部長が元いたサプライ・ユニバース社の新製品発売の企画案の説明会でしょうか?」

「そうだ。」

「何故その説明会に他社が参加するんでしょう?委託する為のプレゼンテーションでしょうか。」

「少し違うな、新製品の立ち上げから他社に委託するというのが、正しい表現だな。 」

「えっ!サプライ・ユニバース社が新製品の企画からですか!」

「そうだ。」

相良部長の口調はあっさりしたものだったが、これは前代未聞の事だ。
私の俄に信じられない表情を察してか、部長が補足する。

「サプライ・ユニバース社の本社は、アメリカって事は知ってるよな?」

「はい。外部文書も注文書も全て英語ですから。」

サプライ・ユニバース社は、ヘアケア商品や、洗剤といった家庭用品を広く扱っている。特にヘアケア商品にはハリウッドスターを広告に使うなど、特に力を入れている部門だ。

「じゃあ、サプライ・ユニバース社が日本工場を閉鎖せざるを得ない状態なのは知っているか?」

「えっ…!初めて聞きました。」

相良部長は、私から目線を一旦外し、手元のレジュメを見やった。

「サプライ・ユニバース社に限っての事じゃないんだ。各メーカーは、施設の老朽化やコスト面で国内の自社工場を閉
鎖する動きにある。」

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