スロウダンス
知らなかった…。確かに某有名メーカーが工場を閉鎖する…というのは、去年から噂にはあったが、そのメーカーにサプライ・ユニバース社が含まれていたなんて。

「業績自体、右肩下がりでな、経験豊富なマネージャーも他社に流れたり…今サプライ・ユニバース社には新製品を作り出せる人材そのものが不足しているんだ。」

(ん?…って事は、相良部長の転職理由もそこにあるのかしら?)
そう思った矢先、

「いっとくが、俺は違うぞ。」

「えっ!私、口に出てましたか?!」

慌てて口に手をやる。そんな私を見て盛大なため息を吐くと、

「お前の考えなんか、聞くまでもなく
だだ漏れだ。」とそっぽを向く。

「くっ…」

思いきり馬鹿にした表情を向けている。(なんか屈辱的だ…。)

「じゃあ、今日の行き先は…」

「サプライ・ユニバース社だ。前情報によると、今日の説明会に50社集まるらしい。」

「ごっ、50社ですか…」

あんぐり口を開いたままの私に

「だから、昨日気合い入れてけって言っただろうが。」

「で、でもまさか初っぱなからこんな大きな仕事を取りに行くとは思ってなくて…!」

「最初だからこそ、大きな案件を狙うべきだ。だが…」

そこで相良部長は、言葉を区切る。二の句を躊躇いながら私が後を引き受けた。

「…もし成果をあげられなければ、『次はなない』でしょうか?」

「…まぁ、そうなるかもしれないな。」
顎に手をやりながら、窓の外を見やる。

(・・・なんだか事態を甘く考えすぎてたかも、私)

それから相良部長は、無言のままで、私は落ち着きなく手元のレジュメをパラパラ操る。

そんなかんなで1時間半、やり過ごすと東京駅に着くアナウンスが流れた。


< 33 / 35 >

この作品をシェア

pagetop