スロウダンス
「…では、お互いにベストを尽くしましょう。」

そこで、今まで終始ニコニコしていた人から表情が一瞬消えた。

しかもそれは私が瞬きしたわずかな間に元に戻り、また口許に笑みを浮かべて、一礼すると席へと戻っていく。

私は、何となく嫌な空気が身体中にまとわりつくのを感じて、身震いした。

「…気を付けろ、あれが蛇の異名を持つ、山下だ。」

「へ、蛇ですか!」

「執念深いヤツってこと。」

「確かに!なんだか派手な服装な人でしたもんね。ストライプのスーツといい、目がチカチカしました。蛇は、蛇でもガラガラ蛇みたいな」

「…プッ!」

突然吹き出したかと思えば、相良部長は、俯きながら小刻みに肩を上下さしている。

その様子に呆気に取られる。

「あの~、私、何か変な事言いました?」

おずおずと話しかけると、手をひらひらさせながら、息を整えている。

「いや、いい。気にするな」

コホンと咳払いすると、何事もなかったようにノートPCを取り出して、臨戦体制に入っている。

その切り替えの早さには舌を巻いてしまう。ぼんやりとしていると、部屋が暗くなり、白く照らされたスクリーンがゆっくり降りてきた。

「前を向け、説明会始まるぞ」

「あっ!はい。」




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