スロウダンス
講堂の扉を開けると、パート、派遣、社員とほぼ全従業員が集まっているようだった。

300人超の従業員が集まれば、室内は冬とはいえ暑いくらいで、席は現場の従業員を中心に埋まっていた。

私はベストの上に羽織っていたカーディガンを脱いで、壁つたいに前の方へ移動していく。

移動する途中、途中で新年の挨拶がてら何人かに話しかけられた。

ようやく、上司の正木(まさき)部長の姿を見つけた。

身長160cmの私より小柄なので、こういった大人数が集まる場所では、なかなか見つけくかったりする・・・。

ーーーけれど、

頭頂部が光を放っているので、失礼ながらそちらを目印にさせて頂いている。

「おはようございます、正木部長。本年も宜しくお願いします。 」

と挨拶すると、

正木部長は、視線は前方を向けたまま、

「あぁ、藤曲さん、今年も宜しくね。んー、でも今日は、ちょっと遅いね」

と短い挨拶と一緒にチクリ。

(新年早々、注意されちゃった・・・)

軽く首をすくめる。

正木部長は、入社してからずっと御世話になってる。

しかし残念ながら今年の6月に定年退職が決まっている。


なんとなく「今年も宜しく」の挨拶に寂しさが滲んだ気がして、私はあらためて最後の年なんだと実感してしまう。

(よーし、正木部長に迷惑かけないよう、頑張らなきゃな。)

『キーン』と耳障りな金属音。

マイクを握り、壇上に社長が姿を見せた。

「えー、みなさん明けましておめでとうごさいます。
長い正月休みが明け、まだお正月気分が抜けきれてないかもしれません。」

(うん、うん、頭の中はまだお正月気分だよ・・・)

「今年、わが社は節目の50年を迎えます。今日のNPコスメティックがあるのは、ひとえに従業員の皆様の働きがあってこそです。しかし・・・」

コホンと、間に軽く咳が入りあらためてマイクを握り直す。

「今、化粧品業界は、飽和期になっています。なのに異業種がどんどん業界に参入し、競争は激化しています。長年委託業務で営業してきた、わが社も培った技術力を武器に製品を積極的に対外へ売り込まねばなりません。
そうでなければ、これから先は厳しいと以前より感じていました。
・・・そこで今年はリ・スタートの年にしようと思います。」

(リ・スタートかぁ)

社長が、チラリと横を見たので、周りも自然と視線が移る。

ザワザワ・・・・

社長のサイドに立つのは役員の方々。
その中に一人、目を惹くの男性の姿が。

(あっ、あの人は・・・?)

「では、この場で紹介します、今年より新設します、企画業務部の部長に就任しますーーー、」
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