スロウダンス
「ね、目の保養になったでしょ?」

昼休み、応接室で森さんと向かい合わせに昼食をとる。

ホントは食堂か自席で昼食が決まりだが、お昼休みにも社外から電話が来る時がある。

その為、電話を取り次ぐ、森さんの権限で特別に応接室を使わせてもらい、私も一緒させてもらっている。

正面に座る森さんは、お弁当を拡げながら、目が爛々だ。

「・・・うーん、目の保養というか、単純にカッコイイ人だなぁって、思います。」

私は、答えながら玉子焼きに手を伸ばす。

「おっ!珍しいね~。藤曲ちゃんがこの手の話にのるの。フフッ、これから会社に来る楽しみが出来たわ♪」

「旦那さまがいる身分で何言ってるんですかぁ~」

「いい男でホルモン活性化させなきゃ。旦那だけじゃ女性ホルモンは増えないわよ~」

キッパリ言いきる。

「これから、相良(さがら)君を狙う女、たくさん出てくるわよ~。なんたって35歳独身、着任時に部長からスタート。期待されてるわよねぇ~。さらに元一流企業からヘッドハンティングされた有能なイケメン。付加価値たっぷりじゃない。」

森さんが今回の人事を事前に知 り得たのは、総務部に相良部長の履歴書が回ってきていた為だった。

彗星の如く現れた、企画推進業務部 部長

ーーー相良樹(さがらいつき)

名前だけは知っていた。彼は元うちの客先だ。

生産管理部にかかってきた電話を何回か取り次いだ事がある。

それに彼の噂は、自然と耳に入った。新製品の立ち会いには必ず来社し、その度に、対応する営業部の女子がキャーキャー騒いでいたから。

でも実際に姿を見たのは、今日が初めてだった。


意志の強そうな切れ長な目、綺麗な鼻梁、薄い唇はきっと結ばれている。さらに丁寧にセットされた黒髪が彼の知性を引き立てていた。

立ち姿も綺麗で、低すぎもなく高すぎもない、不思議とよく通る声で、ゆったりと自己紹介する、、、

気づけば、周りの女性陣は、ぽーっとしていた。

マンガで表現されれば、相良樹の周りには花で囲まれ、ハートマークが飛び交っているに違いない。

事実、朝礼が終った後、

「ヤバイ!あれヤバくない?」

「うん、うん、ヤバイくらいのイケメン」

と、そこかしこで若い女の子たちが騒いでいた。

パートのおばちゃんも、あからさまに言葉にしなくともウキウキしているような・・・

(そういう私もありありと姿を思い出せるんだから、少なからず影響は受けているんだろうな。)

『RRR・・・』

突然、応接室の内線が鳴った。
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