スロウダンス
「はい、森です。」

内線電話をとると、何回か頷いて、私を見た。

「藤曲ちゃん、正木部長から。」

森さんから、受話器を手渡される。

「お電話代わりました、藤曲です。」

『お昼休みにすまないね、実は13時から第一会議室で打合せなんだ。』

第一会議室は、今いる事務棟から離れた工場棟の4階にある。

「はい、何かお忘れ物ですか?」

『そうなんだ、昨年度の収支報告書のファイルをね、悪いがこちらへお願い出来るかな?」

「大丈夫です。直ぐお持ちします。」

電話を切って、森さんに内容を話した。

慌ただしく、お弁当の残りを片付ける。

「まったく・・・、正木部長もねぇ、人使いが荒くて。なんでも藤曲ちゃんに頼めばいいと思ってるんじゃないのぉ?」

「まぁ、そうかもしれないですけど、収支のファイルは私が作成したんです。だからかもしれません。」

「・・・藤曲ちゃんは人がいいからさ~、なーんか心配なのよね」

私は、森さんを見ないようにしながら、話題を変えた。

「では、ちょっと行ってきます。あと、バタバタしちゃいましたが、これプレゼントです。」

ピンクの包装紙を差し出す。

「ありがとう♪えー、何だろう?」

「中身は、お風呂で使えるアロマランプなんです。私もお揃いで買っちゃいました。」

「嬉しい!またゆっくり話そうね」

(喜んでもらって良かったぁ~)

ホッと胸を撫で下ろして、応接室を後にした。
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