恋花火~あの日、言えなかったコトバ~
ようやく泣き止んだカナを確認し、ナオキが優しく声を掛ける。

「落ち着いた?」

「はい…急に泣いちゃってごめんなさい」

「謝らなくてもいいけど、俺何か悪い事しちゃった…のかな?もしそうだったらこちらこそごめん」

「違うんです!あの…」

言いにくそうに押し黙るカナだったが、意を決したように再び口を開いた。

「…ナオキさんってあたしに会う前に他のヴォーカル候補の子と会ったりしました?」

「いや、実際に会ったのはカナちゃんが初めてだよ」
「良かった…あたしね、自分の歌を認めてくれたの友達以外じゃナオキさんが初めてなんです。誰かに必要とされるなんて、今まで1度もなかった」

「……」

「だから…これからも一緒にいてくれませんか?」

「ちょっと待って、それはバンドのメンバーとして、だよね?」

「…それもあるけど、出来れば1人の男性として向き合って欲しいです。もう淋しいのは嫌だよ…」

「…少し考える時間くれる?もちろん1人の女の子として、カナちゃんはすごい魅力的なんだけど、今はカナちゃんの事ヴォーカルとしてしか見られないから…。バンドやるって決めた以上公私混同はしたくない」
「わかりました…じゃあ、今日はここで」

そう言って力無く立ち去っていく少女を、ナオキはいつまでも見送っていた。
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