恋花火~あの日、言えなかったコトバ~
「ごめーん、待った?」

待ち合わせ5分前、もう既に彼は待ってくれてる。

「いや、今着いたとこ」

「あたしばっかり遅れてごめんね…ね、いつもどのくらい前から来てる?」

「秘密。それよりカナって誕生日、来週の日曜日だよな?」

「うん、何かくれるの?期待しちゃうよ?」

「聞いてみただけだ。ま、覚えてたらな」

またはぐらかされた。お互い<彼氏><彼女>になってからナオキくんは時々、こんな風にそっけないふりして、本当はあたしのことを大事にしてくれる。

「ねぇ、今日はどこ行くの?」

「夜景でも見に行くか。横浜行ってみる?」

「いいの?いつもは遅くまで遊んだりしないのに」

「まぁたまには、な。今日も親御さん遅いんだろ?」
「うん、夜は適当に済ませなさいって」

「じゃあ晩飯は中華だな。好き嫌いある?」

「ううん、大丈夫。ね、手…繋いでいい?」

無言でそっとナオキくんはあたしの右手を握ってくれた。手のひら越しに彼の体温が伝わってくる。

「あ、この前のペットショップだ。見てく?」

「うん、あのうさちゃん元気かな?」

ある意味あたしたちを結びつけてくれたとも言える、いつかのうさちゃんを探して店内を見回す。

「…いないね、誰かに飼われてったのかな?」

「だといいけどな。幸せに暮らしてるといいな」

「お礼、言いそびれちゃった…元気でね」

「お礼って?」

「何でもない。ね、もう行こ」

今度はあたしからぎゅっとナオキくんの手を握る。

ばいばい、うさちゃん。
あたしたち、これからもっと幸せになるからね。
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