東京ロマネスク~冷酷な将校の殉愛~《完》
俺は椿を連れ、屋敷の別棟にある音楽鑑賞室に入った。



「最後の夜だ…」


俺は多分、戻って来ないーーー・・・


戻って来ると椿とは固く約束し合ったのに。


「最後の夜とは不穏な事を言いますね…貴方は私に必ず…戻って来ると言いました…」



俺は棚に並んだレコードから…椿と初めて夜会で踊ったオーケストラが奏でていたワルツの曲を探し出した。


今は戦争で敵国となった英国製のフロア型の蓄音機にレコードを乗せる。



「すまぬ…椿」



俺は椿を抱き締める。



瞳と息さえも絡め合う至近距離。



室内に響く優しいワルツの調べが鼓膜に響き、俺の切羽詰った気持ちを落ち着かせた。




「椿…お前と踊りたい」



「はい」






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