東京ロマネスク~冷酷な将校の殉愛~《完》
沐浴を済ませ、中尉殿の居る寝室に戻る。



彼は深い紺の単衣姿で窓辺の肘掛椅子に座り、煙草を吸っていた。



「…沐浴…終わりました…」



「あぁ」


電灯の光の中で見る中尉殿の顔は複雑だった。



「…不束な者ですが…よろしくお願いします…中尉殿」


「征史で良い…」



「しかし…」



「俺は貴様の夫だ…軍人の階級で呼んで欲しくはない…」



「わかりました…ゆ、ゆ、征史さん」


「…寝るぞ」


彼は煙草を灰皿にもみ消して、電灯のつまみに指をかけて消した。



寝室は暗くなり、窓から降り注ぐ月明かりだけが部屋全体を照らす。










< 63 / 300 >

この作品をシェア

pagetop