東京ロマネスク~冷酷な将校の殉愛~《完》
「いえ…」


「じゃあ~母上の命令だね…あの人は本当に意地が悪い人だ。母上は自分が平民出身だから…華族の令嬢である椿さんに嫉妬してんだよ」




「…嫉妬…ですか?」



「額に汗…かいてる。これで拭いて」



清史さんは私にハンカチーフを差し出した。



「いえ、大丈夫です…」



手の甲で額の汗を拭う。




「椿さんは文学部だったよね。これ、読んだ事ある?」



清史さんは私に持っていた書物を見せてくれた。

黒い布張りの表紙。


「『オペラ座の怪』ですか…読みました…」



「椿さんは全部…読んでいるんだ…」






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