上々、花日和


「あっつ」

もう9月も下旬だと言うのに夏の暑さは引いてくれない。麻のジャケットもまだ着続けている。

8階開発部に到着。

各部署の入口のほとんどはIDを通せば通過できるのだが、セキュリティが厳しい所はエラーで鍵が開かないシステムになっている。

開発部前にあるインターホンにて申し出る。

「はい、開発部です」

「企画部の伊東です」

「伊東さんですね」

廊下は熱がこもっていて暑い。汗がじんわり出てくる。

「お待たせいたしました。部署の奥にあります部長室までどうぞ」

受付の人がそう言うと、カチャと鍵が開く。

「ふぅ」

一息ついてドアを開ける。開発部の部屋があるが、磨りガラスのようになっていて内部の様子は見えない。奥の部長室までの廊下を歩く。

トントン、とドアを叩き

「どうぞ」と声がして、

「失礼します」

と言ってから扉を開く。
中から涼しい風が漏れてきて少し安心する。

「企画部より参りました、いと…」

挨拶の言葉が詰まった。

「やあ、ハナちゃん」

ハナちゃんと呼ぶその人は、

「なっ、永富さんっ!?」

永富さんだった。
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